C集中豪雨の帰路

「佐賀発大畑行き」。このような物好き以外は絶対買わないようなきっぷを買ったのは、おそらく私だけではないだろうか。

 列車が来るまで30分。ふと、西のほうに目をやると、何やら怪しい真っ黒な雲が。すると、ゴロゴロ……という雷鳴まで聞こえてきた。こりゃあ出歩くのは危ないと思い、先ほどの慰霊碑横での撮影を中止することにした。

 列車到着15分くらい前、どこからかかすかに「ブロロロロ……ファーン」という明らかに人工物の出す音が聞こえてきた。「しんぺい」なのだろう。ループをぐるりと回って来るのだから、15分前で列車の音が聞こえても不思議ではない。一方、雷の音はどんどん近づいてくるばかり。土砂降りにならないうちに、早く列車が来ますように……と祈りながら、大畑駅の木製ベンチに腰を下ろして待った。しばらくすると、次第に「ブロロロロ」という音が大きくなってきて、林の向こうに漆色と白の列車が通過した。まもなく、列車は折り返してきて、大畑駅に入線した。幸い、まだ雨は降っていなかった。

 しかし、自由席車内は立ち席が出るほど混雑していた。

 雨が降っていなかったので、多くの乗客が車外に出たが、発車間際になると列車に戻って、それぞれの座席に座った。立ち席になったのは、最終的に10人もいなかった。次は終点なので、そう疲れることはないだろうし、立っていた方が次の特急に乗り換えやすい。

 列車は定刻に人吉駅に到着した。ちょうど立っていたところが、階段そばのドアで、接続する特急「九州横断特急」には一番乗りで乗り換えることができた。自由席車内にはまだ空席があったので、窓際に座れた。ところが、次から次に「しんぺい」の乗客が乗ってきて、まもなく自由席は満席に。私の隣にも男性が座った。デッキも客室も立ち席の人でいっぱいになったところで、列車は人吉駅を発車した。「しんぺい」からの乗り換え客も多かったが、部活の遠征帰りと思われる高校生の姿もあった。

 しばらくすると、雨がぽつぽつ降り始めた。まぁ熊本に着くまであと1時間以上あるし……と思って、しばらく寝てしまった。起きてみると、窓が真っ白だ。何だ!?と思ってよく目をこらしてみると、外は土砂降り。立ち席の乗客の合間からちらっと見えた運転窓には、激しい雨がたたきつけていた。横を流れる球磨川は増水して、往路で見たときよりもさらに茶色くにごった水が流れていた。

 坂本駅を発車してしばらくすると、行く手が明るくなってきて、雨は小康状態になった。

 八代平野に入ると、雨が降った様子は全くなく、列車はかなりのスピードで駆け抜けた。

 左手に九州新幹線の高架橋が見えてきた。途中の川では、川の両端ではなく橋脚からT字型に工事が進められていて、両手を広げたような面白い姿をしていた。

   17:36、大雨に遭ったにも関わらず、列車はわずか2分遅れで熊本駅に到着した。

 約1分の接続で、鳥栖行きの815系各駅停車に乗った。夕方時ということもあり、座席は全て埋まっていた。なので、いつも通り運転席の後ろで前方風景を眺めた。

 途中の吉野駅では、部活帰りと思われる高校生(?)がたくさん乗ってきた。おそらく、吉野駅そばにある私立高校の生徒だろう。ところが、座るとすぐにバッグから制汗剤と思われるスプレーを取り出し、一斉に噴射を始めたものだから、車内にはかなりきつい臭いが充満した。私はそれを必死で我慢した。

 「常識のない高校生が増えている」とよく言われる。車内での携帯電話も、このスプレー一斉噴射も「周りの人がどう思うか」「公と私を区別する」という“常識”さえ持っていれば、絶対にしない、できないことである。しかし、それでもやってしまう高校生がいるのは、保護者が過保護すぎるのと生徒が大学受験の勉強しかしていないことに大きな要因があると思う。特に後者の大学受験云々は、先日行った福岡市内での用事でもそのような声を聞いた。

 確かに最近の治安悪化は問題である。学校の校則によれば、子供だけで旅行に行くには、生徒指導室の許可が必要なのだという(もっとも、これは建前上でしかないようだが)。小学校のときは、子供だけで校区外に行くなという規則があった。病弱でもないのに学校にすぐ送迎しようとする。私の通う学校でも、ちょっとした雨くらいで校門前は大渋滞である。勉強だけしていれば、携帯電話を学校に持ってこようとお咎めなしという高校も多いと聞く(この点では私の学校は大変厳しいが)。だが、そんな環境の中で、子供の何が成長し、どうやって社会を知ると言うのだろうか。おそらく、そのような教育を受けた子供が大人になったとき、自分の子供にやはり同じようにするだろう。結果として、常識のない、社会を知らない子供がほとんどになってしまうのだ。そのような社会は、間違いなく堕落し、犯罪が増える。他人のこと、社会にどのような影響を与えるか知らないから。「登下校中に危険だから」という目先の安全だけでなく、今の状況をよく見極めて、長期的視野で子供のことを考えるべきだろう。

 羽犬塚駅で一旦途中下車し、公衆電話から自宅に電話をかけた。

 羽犬塚駅からは、快速に乗り換えた。この快速は、荒木駅で先ほどの各駅停車に追いつくため、結果として鳥栖駅には早く着くのだ。

 ところが、久留米市に入った頃から突然土砂降りになり、稲妻が走った。久留米駅の手前にある道路は冠水し、車が水しぶきをあげて走っていた。久留米駅では、乗客が大急ぎで乗り、電車はすぐに発車した。発車した直後、2時の方向にバシッと太い稲妻が走ったかと思うと、ドシーンという大音響が聞こえた。電車の中にいてこれだけの音が聞こえたのだから、近くに落ちたのだろう。電車は筑後川橋梁を渡り、佐賀県に入った。

 雨はなおも土砂降りで、時折稲妻が光った。電車内は安全だと言うことだが、それでモータや走行機器が過剰電流によっていかれてしまっては、車内に缶詰となってしまう。雷が落ちませんように……と、鳥栖駅に着くまでずっと祈っていた。不思議なことに、鳥栖駅は土砂降りではなく、雷も遠くでなっている程度だった。久留米と鳥栖では数キロしか離れていないのに。先ほどの雨は、局所的集中豪雨だったようだ。

 鳥栖駅では、885系特急「かもめ」に乗り換えた。もちろん、この時間帯だから自由席車内は当然満席で、立ち席となった。だが、佐賀までは15分ほどで着くので、それほど苦痛なものではないが。

 最後は集中豪雨となってしまったが、大畑駅で過ごした時間は大変貴重なものだったと思う。もし、今度行くときは、大畑ループが撮影できるように、秋や冬に行こう。もっとも、それがいつになるのか分からないが。

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